【完】切ないよ、仇野君
練習試合が終わり、両校でクールダウンに軽い練習をして、荒商メンバーを見送る時間。
「ちー!」
ドリンクキーパーを洗う為に外の水道に出ていた私は、呼ばれた声に振り返る。
そこには、試合こそ負けたけど、あの中で一番に輝いていた、歩君の姿がある。
前髪をヘアピンでオールバックにした歩君のさらさらのブロンドヘアーが、初夏の風でゆらゆらと揺れているのが、とても綺麗。
「お疲れ様。帰らんと、置いてかるーばい?」
「よかよか!俺ん家荒商よかこっからんが近かし、何なら現地解散やけん」
笑うと下がった髪の毛と同じ色の眉毛が更にハの字に下がり、大人っぽいと思っていた顔にあどけなさが溢れる歩君。
「ちー、ラインとか聞いても良か?」
「へっ……?」
歩君の優しげな瞳と声に捕まって、私は思わずすっとんきょうな声を上げてしまう。