【完】切ないよ、仇野君
そんな私に歩君はあはは、と声を上げて無邪気に笑う。


「そぎゃん驚かるーち思わんかった。言ったろ?『また後で』って」


「言うたばってん」


まさか本当に話に来てくれるなんて、思ってなかった。社交辞令だとばかり認識してた。


戸惑いを隠せない私の頭にポンポン、と歩君が優しく掌を乗せる。


なんだか、歩君からは日だまりの香りがして、とても落ち着く。


「ちーはさぁ、泰河んこつ、好いとっとやろ?」


「え、あ…………分かり、やすかかな?」


まさか初対面の人に気付かれてしまうなんて。もしかして、回りにも、泰ちゃん本人にも気付かれてたら、どうしよう。


そんな不安を他所に、歩君はハの字の眉毛を優しく下げて、黒目の大きな瞳を細めて微笑む。


「試合ん最後の『頑張れ』ば聞いたら気付くわ。あれは効いたわ」


そんなにあれに気持ちが籠っていたのかな。そう思うと今になって恥ずかしくなる。
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