【完】切ないよ、仇野君
あの日、椿に保健室で言われたあの些細な言葉が、私を少しだけ変えるバネになってて。
……こういう時は『ごめん』じゃなくて『ありがとう』でしょ?
その後の、泰ちゃんとの会話で、自分を好きになる努力をしようって思ったけど、自分を好きになれるところなんか、やっぱり無くて。
だから、私はまず雅美の好きなところってどこだろうって考えて。
雅美の口癖は『ありがとう』だっていうのに気づいた。一日何回も、数えたらきりがないくらいに雅美はそれを口にする。
それに比べて私は『ごめん』ばかり。
椿がそれを、重荷にならないように指摘してくれたんだって思ったから、雅美を真似てみることにしたんだ。
そしたら『ありがとう』って、魔法の言葉なんだなって、気づけたよ。
その言葉を口にすると、自分も、相手も嬉しくなるんだから。
「ねーちーちゃん、もしかしてなんやけど、泰河と何かあったと?」
「はっ……!?な、無い……とも言い切れんですけど」
あの日のことを思い出すと、恥ずかしくて、テンパるし、心臓を思いっきり掻きたくなる。
泰ちゃんに、キス、されたんだもん。
頬だったけど、一瞬だったから唇が柔らかいとかそんなのも全然分からなかったけど、されてしまったんだ。
思い出すと、そこから火が噴き出してしまいそうな気がする。