ツンデレ社長と小心者のあたしと……zero
あたし達はデートもなしで、ミツアキの部屋に来ていた。
それまではきれいに整理整頓されていた小さな部屋。
その室内が、驚くくらいに雑然としていて……思わずあたしは息をのむ。
「片付けようか?」
「ああ、助かる」
掃除をする暇もないくらい忙しい?
ミツアキは、一体毎日何をしているのだろう。
冷蔵庫やゴミ箱の中身から察するに、まともな食事をしていないであろう事は一目瞭然だった。
あたしが部屋を綺麗にし、テーブルに座る間も、彼は忙しそうに携帯をいじっている。
テーブルの脇には数冊の本が置かれていた。
食事の準備をするため片付けようと、その中の一冊を手に取ったあたしを見て、ようやくミツアキは顔を上げる。
「これ、俺が今一番ハマってる本。読む?」
あたしが手に取った本の、もう一冊下にあった分厚い書籍。
ミツアキから無造作に手渡され、表紙に目を向けると著者名に「城田博人」と書かれている。
「これって……よくテレビで見るあの社長の?」
こんなビジネス書を勧められても……と思いつつ、いつだったかニュースで見た城田社長の顔を頭に浮かべてみた。
若き革命家。
これまでのビジネスの常識を塗り変え一躍時の人となった有名社長だ。
とはいえ、それ以上の事はあまり知らない。
あとは時々週刊誌で熱愛記事が報じられていた事くらいしか……。
今風の清潔感あふれるルックスで、成金のような雰囲気も無いあの社長なら、芸能人とだって普通に恋愛出来るんだろうな、そんな事を漫然と思ったっけ。
つまり、今ミツアキはすっかりこの城田社長の考えに賛同し、それであたしの事も、周りの事も見えなくなっているのだとようやく分かった。
持った本は、実際の重量よりもずっしりと重く感じられる。
それは、ミツアキが城田社長を想っている分だろう。
たかが活字……。
けれど、その中身はあたしからミツアキを奪ったもの。
果たして憎まずに読めるだろうか……。
《価値と勝ちを手にする為に》
あたしには、全く必要無いであろうタイトルのこの本。
封印せず開いたのは、彼の心を知りたかったから。
今も、これからも、ミツアキの近くにいたかったから。