ツンデレ社長と小心者のあたしと……zero
その日は夜までミツアキと一緒に過ごした。
けれど、これまでのような楽しい気持ちにはなれなかった。
お決まりのキスも、愛を確かめ合う行為も、すべてが簡潔化されているようで、あたしの体の上を空っぽの空気が撫でているよう。
あたしの体、ではなくてその向こうにある何かを探ろうとしているみたいな愛撫は、今のあたしを否定されているようで悲しかった。
いつまで待ってみても自分の世界から出てこないミツアキを見ていられなくて、あたしは早々に部屋を後にする。
引き止められなど……しなかった。
いつもだったら……
「こんな暗くなってから一人で出歩くなんてダメだ」
って叱ってくれたのに。
一人の家に帰りたくなくて、駅前をうろうろとしてみると、眩しく光るファミレスの看板が目に入る。
「入ろうかな」
と足を一歩踏み出したけれど、中にいる人たちがみんな幸せそうに見えたから……やっぱり家を目指す。
シャワーを浴びてベッドに横になると全身が言いようのないだるさに包まれていた。
そのまま疲れに身を任せ眠ってしまえたら……と願うものの、目だけが冴えて眠れない。
仕方なく起き上がると、あたしは鞄の中から例の本を取りだした。