ツンデレ社長と小心者のあたしと……zero
こうなったら、絶対にミツアキを変えた原因を探してみせる。
テレビ画面でしか見たことのない、本の書き主である城田社長に腹がたって仕方がない。
どうせ自分は色々と上手く行っているから、巧みな言葉で若者をたぶらかしているのに違いないのだ。
許せない……。
複雑な思いを抱えながら表紙に触れたあたしは、そりゃあもう血走った目で本を開いていたと思う。
ところが……たった一章を読んだだけのところで、あれ?と首を傾げた。
「何かちょっと……思ってたのと違うかも」
本のタイトルにもある、価値と勝ちという二つの言葉。
それは誰しも内に秘めている自分だけの価値を見つけ、そして勝ちを手に入れろという意味なのだと書かかれている。
城田社長のように、一瞬でお金持ちになる簡単な方法……。
なんていういかがわしいものではなかった。
例えば彼の場合、最初は好きだった文章を書く仕事を個人的に引き受け始める。
その合間に、地道に他のやりたい事へも手を伸ばし、上に上がっていった……。
という自らを例にした話などが書かれていた。
趣味を仕事にするな、という有名な文句があるけれど、それとは真逆の考え方。
しかし、説得力のある言葉と飾らない文体は名言なんかよりもずっと心を引き寄せる力を持っていた。
そう、彼の言葉は人の心に寄り添っているのだ。
さすが、文章を書くのが好きなだけある。
得意な事を率先してやり、苦手な事は遠慮なく人に頼る。
甘える事を恐れない。
自分に自信を持って。
それは、あたしに足りないものばかり。
「趣味は?」
と聞かれても何も言えなかったあたし。
けれど本当は、イラストを描く事が好きだった。
誰かに見せるほどではないから。
あたしのイラストなんか……とずっと閉じ込めてきた唯一の趣味。
本のページが進めば進むほど、この小さな趣味を解放したいという高揚感に包まれ、ミツアキもこうだったんだと……分かってしまった。
何もしないでただ日々を過ごす事がもったいないと感じる、まるで魔法の本みたいだった。