ツンデレ社長と小心者のあたしと……zero


体が勝手に動き出すと同時に、終わりを告げる鐘の音は、とっくに鳴り終わっていた事にも気が付いた。


彼にとって、優先すべきは私じゃない。
私の価値なんて、とっくに小さなものになっていた。

だからといって、時間を戻すことは不可能。
それに気付いたあたしは、静かに携帯に貼られていた二人の写真を剥がす。


あたしのミツアキに対しての愛は本を手にする前も、今も変わっていなかった。

つまり、

「本のせいじゃない……」

ということ。

ミツアキにとっての彼女という存在は所詮その程度のものだったのだ。


追いかけはじめた夢に負けてしまうような脆いもの。


そんな愛情なら……手を離そう。

「バイバイ、ミツアキ」

自分で決めた事なのにどうしてだろう、声に出したら涙が止まらない。


誰も悪くなんてない。


人それぞれに大切なものが違うだけ。


もう一度さっき読んだ本の中身を思い出す。


城田社長なら、こんな時なんて言うだろうか。


「……時間の無駄、とかかな」


戻って来るか分からない愛を待ち続けたり、尽したりするなんてきっと遠回りで無駄でしかないんだろう。


「男なんていくらでもいる」


そんな答えかもしれない。


だけど……城田社長?


あたしはきっとあなたみたいに強く無いから……軽く笑っておわりにするなんてことは、できそうにありません。


【さよなら】


そう一言だけを便せんに書くと、痛む胸を押さえ、借りた本と一緒にミツアキの家のポストに入れた。


原因は自分だと分かっているのか、それともあたしの事など本当にもうどうでもいいのか。


彼からの返事はないまま、一つの恋が終わった。


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