【完】女優橘遥の憂鬱
 『愛してる。愛してる。もう離さない』
俺はそう言いながらキスをした。

そんな様子を海翔君がドアの隙間から伺っていた。


『忘れ物しちゃった』
そう言いながら後退りした海翔君を、彼女が慌てて追い掛けた。

その時に彼女は、俺のことや監督のことなどを打ち明けたようだ。
だから、俺と海翔君の交流が始まったのだ。




 『訴えよう』
部屋に戻ってきた彼女に俺は言った。


『貴女の両親は借金を背負わされて自殺していた。でも生命保険で完済していると聞いた。その借用書が監督の手にあったは、事務所から盗んだようだ。だから、貴女が監督を恐れる必要はないんだよ』

俺はそう言いながら、彼女を抱き締めた。




 『ちょっと尋ねたい。行方不明になっている自動車会社の社長の娘を捜しているのだが……』

監督はそう言いながら彼女が所属していたモデル事務所を訪ねたそうだ。

はるかさんに良く似た娘がいる。
そんな噂を聞き付けたようだ。

監督は本当は、自分の娘を捜していたのだと思う。


でも監督は勘違いした。

監督と結ばれた遥か以前に彼女を身籠った。
と――。


それを知られたくないばっかりに、死んだことにしたのだ。
と――。


橘はるか。
愛した人と同じ名前だから余計にそう思ったのかも知れない。


だからこそ、憎くて仕方なくなったのだ。


はるかさんは意地を通し監督だけを愛することに決めた。

だから……
監督が報道の仕事で戦場に向かう前に自らの意思で訪ねて結ばれたのだ。

はるかさんが本当に愛したのは監督だったのだ。

監督には解っていた。
それだからこそ、社長が許せなかったのだ。




 監督は俺が恋人と同棲している事実を把握していた。

詳しく調べてみたら、元カノの子供の許嫁だった訳だ。


元カノに続いて恋人まで……
思わずカァーと頭に血が上る。

だから俺を懲らしめたくてアルバイトに雇うことにしたようだ。


彼女は監督の恋人だと自覚していなかったようだ。だから監督の仕事依頼を引き受けてしまったのかも知れない。




 監督の目的は彼女をから俺を遠ざけること。
その当時監督は、仕事でミスをした。

所謂ヤラセ疑惑だった。


後にそれは仕組まれたものだと判明する。
でも、脅されてしまったのだ。


そして、企画に穴を開けたとして多額の借金を背負わされたようだ。




< 103 / 123 >

この作品をシェア

pagetop