【完】女優橘遥の憂鬱
 「だから海翔さんにも来てもらったの。彼のこと覚えてる? 実は、あの日私の身代わりに拉致された女性は彼の恋人だったの。だからあんなに怒ったの」


「あれは不可抗力だった。まさかあの連中が……」


「あの時言ったでしょ『監督が悪い』って」


「そうだな、俺が彼処にいたら……、あんなことにはならなかったな」


「そうよ。でもね。私は許せないのはそれだけじゃないの。結局お父さんはあの連中と組んで、又私を痛め付けるつもりだったのだから……」

そう言った時、父の目が潤んだ気がした。


「あの後で目隠しされた彼女がどうなったか判る? 彼女はパニック障害を誘発して、呼吸困難になったの」


「監督……、そんな彼女を此処に居る海翔君が必死に癒したんです。海翔君は俺達の見届け人です。俺達は海翔君の故郷で結局式を挙げました。そして其処に住み続けようと思っています。どうか俺達の結婚を許してください」

それは……、監督を私の父だと認めた発言だった。

父の目から大粒の涙が零れた。


「娘をよろしく頼む」
父はやっと言った。


(釜かけたら当たっちゃった。本当は知らなかった。監督が父だなんて……。当てっずっぽうだったな。彼の苦しむ姿を見ていられなかった。そして……気付いたの……)




 「彼ね、監督のことを子供の頃から憧れていたんだって。太陽だって言ってる」


「いや、俺は太陽なんかじゃない。俺はテレビで脚光を浴びて光っていただけだ。俺は単なる月だ。イヤ月以下だ」


「君は、その月の陰で幻の夢を追っていただけなのかも知れないな」
海翔さんが言う。


「でも私にとって、太陽は彼なの。私に愛を教えてくれたから」


「愛か?」


「彼は何時も私を支えてくれた。だから……、本当はお父さんが許せない。幾ら憎くても、お母さんとそっくりな私を犯したから……」

私は遂に、言ってはならないことを海翔さんの前で告げていた。




 「ごめんなさい海翔さん。でも真実を知っててほしかったの。そして彼を支えてほしかったの」


「俺、恥ずかしいよ。彼女にこんなこと言われて。俺がもっとしっかりすればいいだけなのに……」


「解っているなら、しっかりしろ。あ、それに告訴は取り下げないでくれ。俺なりの償いがしたいから……」
父はそう言った。


「私、ずっと彼と一緒に生きて行く。だからお父さん、邪魔しないでね」

私はそう言いながらウインクをした。



< 110 / 123 >

この作品をシェア

pagetop