【完】女優橘遥の憂鬱
 「俺がいなくなったら、一々チェックしなくても済む……ってことですか?」

父は頷いた。


「強姦罪の時効も過ぎたからな。だから、誰に遠慮しないで好きに遣れるってことだったようだ。その手始めがアイツ等だったんだ」



「そんな……」
私は言葉を失った。


「俺が……。俺達が彼処に居なかったなら、地獄の苦しみが橘遥さんに襲い掛かったって訳ですね。だったら、俺達のジレンマも少しは役に立ったってことかな?」


「少しどこじゃない。君達は私達父娘の恩人だ」

父は泣きながら、思い出したように私を見つめた。




 「お前があんなこと言うからだぞ」
そして遂に言った。


「あんなことって、もしかしたらヴァージン?」

父は頷いた。


「ヴァージンって?」


「CMの……」


何時か受けたCMのオーディション。


「オーディションで、私言ってしまったの。私はまだヴァージンだって……」

私の発言に海翔さんは黙ってしまった。




 「あのオーディションの時、アイツ等はお前に目を着けた。何故あんなことを言ったんだ」


「やはり私のせいだったんだ」


「『家の俳優に物凄くでかいのがいる。あの娘と遣らせたい』って言われた時は鳥肌が立った。『あの娘は素人ですよ』って言ったら『だから良いんだ。調べた限り、あの娘には身寄りがない。天涯孤独だから、後腐れがないだろう』って言ってた」


「後腐れが無いって。お父さんが言った訳じゃないんだ」


「ああ、そうだ。彼処の社長は、現役の大学生と生で遣らせてやるって、アイツ等を喜ばせたんだ。でも子供が出来たら大変だから、俺に健康管理表を盗ませたんだ。」


「それで事務所に行ったの。」


「其処で、本当の生年月日を知って驚いたいた。俺は……」


「解ってるよお父さん。自分の子供じゃないかと疑っていた私の生年月日が予想を外れていたから……、それに橘はるかさんを恋人だったはるかさんだと思い込んだのよね? でもお父さん間違えてるよ。お母さん、きっとあの時ヴァージンじゃなかった?」


「あっ、そうだった」


「だったら私がその前に出来ているはずなんかないじゃない」


「そうだったな。俺は何を思い違いしていたのだろうか?」

父は頭を抱えた。


「恨んでいたよ。はるかを……俺より先にアイツに身体を開いたことを……アイツを受け入れたことを……」

自分の愚かさに気付いたのか、父は咽び泣いていた。




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