【完】女優橘遥の憂鬱
 ホワイトデーに俺の作ったマシュマロでみさとといちゃついていたら、『早急に愛の鐘を造らなければならなくなったから東京へ来てくれ』と親父から連絡があった。


俺は漁業組合へ連絡を入れてから、青春十八切符で親父に言われた駅に向かった。


でも、改札口で驚いた。
橘遥さんが迎えに来ていたいたからだ。

彼女は行方不明になっていた社長令嬢だったのだ。




 二十歳の誕生日にグラビア撮影で呼び出された彼女は、何も知らされないままに拘束されてAVを撮影されたらしい。


俺はあのスタジオで橘遥さんに憐れを感じ警察に連絡しなかった。
もしあの時呼んでいたら彼女も逮捕されていたのかも知れない。

彼女にとって、良かったのか悪かったのかは解らない。

でもきっと、ずっと本当の父親には会えなかったのではないかと思った。




 社長の部屋に通され、橘遥さんの婚約者を紹介された。

その人は、美魔女社長の事務所で会ったカメラマンだった。


二人は許嫁同士だったのだ。
監督はその事実を知っていた。
知っていながら、苦痛に喘ぐ彼女の姿を彼に撮影させていたのだった。

それは自分の恋人が彼を愛したための腹いせだったようだ。


その時決まったことは、四月一日に入社式と愛の鐘の除幕式を同時にやることだった。


勿論担当者は俺と彼だった。


彼からアイデアを聞いた時耳を疑った。

その鐘を神父様のいないチャペルの一部にするらしいのだ。


其処にあるのは、小さな写真スタジオ。
それが彼の希望だったのだ。




 監督は親父の会社の社長とは古い付き合いで、橘遥さんの産みの母とは恋人同志だったのだ。

社長が横恋慕して、自分の正体を明かした上でプロポーズしたようだ。


それを聞かされた時、俺の母親を死に追いやったみさとの実父を思い出した。




 俺の母は、身籠ったばかりのみさとの母の代わりに乗船し沖合いで死んでいた。


でも、本当の目的は違った。

俺の父とみさとの母を疑い、その腹いせをするためだったのだ。

その行為の最中に大型船と衝突してしまったのだ。




 俺の親父とみさとの母はかって恋人同士だった。
祖母はそれを承知で二人を別れさせて、長男の嫁にしてしまったのだった。

みさとの父が、俺の父の恋人を好きになったためだった。


祖母は家業を継いだ長男を溺愛していたのだった。

そのことで祖母は苦しみながら死んでいったのだった。



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