【完】女優橘遥の憂鬱
 私も泣いていた。
全て目の前にいるこの社長のせいだと思って生きてきたからだった。


「訴えよう。強姦罪と窃盗罪。それから詐欺罪でも。私は貴女が自ら監督の元へ行ったのだと思っていたの。だってタイトルが、戦慄!! 橘遥処女を売る。だったからね。此処にいたみんなも……。思い込みって恐いわね」


社長が助けてくれなかったのは、戦慄があまりにも強烈で私が小遣い稼ぎで監督に近付いたのだと思い込んでいたからだったのだ。


「殺人罪以外は、時効があるの。今調べているからね。あっ、駄目だ。窃盗罪は七年だ。ホラウチから資料を盗んだから窃盗罪でもと思ったんだけどね。じゃあ、次は強姦罪。あっ、これも七年だ。確かタイトルがバースデイプレゼンショーだったわね。それって本当に二十歳の誕生日だったのね?」


「はい、それが何か?」


「二十歳以上は、児童福祉法とか、未成年者保護法の対象にならないのよ。あの監督はそれまで狙っていたわけよ。あの人本当に最悪だ」


「もしかしたら、私を育児放棄したと言う産みの親まで調べてたのかな?」


「そうかも知れないわ。きっと誰にも訴えられないと思ったのね」


「あっそうだ。『大丈夫だ。コイツは今日二十歳の誕生日なのさ。だからこの日を待っていたんだ』って監督が言ったら、『こりゃとんだバースデイプレゼントだ。俺達はただ、後腐れのない生粋の女子大生と生で遣らせてくれって言うから来ただけなのに』って男性俳優が言ってた。それって、私の親のことだったのかな?」


「後腐れがないか……? 本当に質が悪い。今更ながらに腹が立ってきた。でも、ごめんね。私が……、全部私が悪いの」

私は頻りに私に謝っていた。


「あぁ、駄目だ。詐欺罪も七年だって。あれっ、ちょっと待って。詐欺罪は、騙されたことが修了時点かも知れない。アナタの場合悪質だから何とかなるかも知れない」


「あっ、民事は二十年だって。でも、犯人知って三年か? 私達は今さっき知った。つまり、民事裁判なら起こせるってことよ。あんな人をのさばらせておく訳にはいかない。今すぐ初めましょう」

社長はそう言ってくれた。




 「あっ、そうだ。ねえ、又モデルやらない? ホラ、此処に貴女を紹介してくれた彼女ね。今度独立することになったの。どう?」

私は社長の言葉が嬉しくて頷いていた。
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