【完】女優橘遥の憂鬱
 (えーっと、最初に拉致されて、それからすぐに目隠しか)

本当は物凄く気が重い。
それには理由があった。


何時もなら、私を見守ってくれるカメラマンが居ないってこと。

私のようなAV女優を、何時も裏から支えてくれる専属のカメラマンが居ない事実が、重くのし掛かっていたのだ。




 彼なら、私が嫌がることは絶対にさせない。
身体の関係を求めるとか、そう言うのじゃない。

ま、一度だけやられたことはあったけど。


本当は優しい人なんだ。
常に私を気遣い、監督にも意見してくれる。

私がこうしてこの業界で生きて来られたのは、全て彼が手を回してくれているからと聞いている。


身体や肌を触れ合わせる撮影はAVなら当然のことだ。

普通ならスキンを使う。
でも監督は使わせてくれない。

だから、エイズ何かが移らない処置が大切なのだ。


性病予防には、スキンが一番有効らしい。
でも監督が使用させてくれないから、内緒で婦人科に連れて行ってくれた。




 今は殆ど使われなくなった女性専用の避妊具がある。

男性側からは気付かれ難いそうだ。


何故そんなことを彼が知っているかは判らない。
それだけ、女性経験が豊富なんだと勝手に思っていた。


彼に遣られた時、初めは強引だった。
でも、途中で急にゆっくりになった。私を堪能しているのだと気付いた。その時、あまりの心地良さにイキそうになった。

彼に犯されているはずなのに……




 産婦人科医は、内径や大きさを測ってからドーム型のそれを用意してくれた。


撮影前に装置して八時間以上置いてから撤去する。
二十四時間以上付けっぱなしにしておくと皮膚が炎症を起こすそうだ。

勿論、スキンがベストだと解っている。
でもそれが、その時点で出来る最大の有効策だったんだ。


『絶対に他言無用だ。もし監督が知ったらたたじゃ済まなくなる。いいか、これは全て貴女の体を守るためなんだからな。俺も、病気を貰わないように配慮はするけど……』

彼はそう言ってくれた。


だから私はこうして、この業界で生きてこられたのだった。

本当はあんな監督の元で長らえたくもになかったけどね。


あの撮影で出会った頃は大学生で、アルバイトに明け暮れていた。
だから手入れの楽なショートヘアー一辺倒だったんだ。




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