【完】女優橘遥の憂鬱
 彼は集まったモデル候補生の撮影をしながら、以前読者モデルをしていた娘の悩みを聞いていた。


雑誌での専属モデルになるのにも、読者モデルになるのも並大抵ではない。


特に読モは、衣装や小物類までもが自分持ちって所が多くて、彼女達の悩みのタネになっていたのだ。


売れている娘はスポンサーもつくけど、其処までになるのが大変だったのだ。




 そこで思いもよらないことを提案した。

それは持ち回りだった。


彼女達の持っているブランドバックを事務所が預り、必要に合わせて貸し出す方法だった。

彼は彼なりに、サポートすることがこの事務所への恩返しになると思ったいたようだ。




 私は集まった、未来のモデルの卵達にモデルウォークを教える。


講師料金節約の一貫で、場所も自治会の会議室。
料金は半日で約三千円程度で済むからだ。




 「キャットウォークって解る?」


「はい。解ります!!」
勢い良く手を挙げる娘がいた。


「じゃあ、皆に解るように説明してあげてね」


「キャットウォークって言うのは、文字どおり、猫が歩く道です。良く天井近くの梁か何かに造ってあります」

その娘は超真面目に答えていた。


「ぷっ!」

誰かが吹き出した。


「其処で笑った人。それでは正しい説明してあげてみて」


「はい。キャットウォークは、建築現場では足場です。ホラ、家を建てる時に大工さんが色々な物を運ぶために造ります。でも、講師の言われたキャットウォークは、きっとランナウェイとも言うファッションショーの突き出した道だと思いますが……」


「その通りです。説明も、完璧でした。建築現場を良く思い出してください。あれだけ高いとバランスを保つのも大変ですね。ランナウェイでも同じです。バランスが悪いと、高い場所から落ちてしまいます。だから、そんなことにならないようにしっかりモデルウォークをマスターしてください」


モデル独特の歩き方は正直言って疲れる。

読者モデルなら、大股で大手を振って歩いていればそれなりに格好良く見える。

でも基本中の基本だから、どうしてもマスターさせなければならないのだ。


モデルになるにはモデルウォーク以外のレッスンも必要になる。


もし普通のモデル事務所に所属したのなら、それらの費用はモデル持ちで、百万円も取られる所もあるようだ。


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