【完】女優橘遥の憂鬱
私は高速バス事故の生存者だった。
母親の胸にしっかりと抱かれていたから助かったようだ。
「きっと、近くで貴女の泣き声を聞いたんだ。自分の子供だと勘違いして抱き上げた。だからその人の子供だと思い込まれて一緒に救急車で運ばれたんだ。貴女を育ててくれたお母さんの名前が橘はるかだったんだ。だから監督は……、つまり監督は育児放棄をして逮捕されたお母さんのことまで調べたんだ。だから俳優陣に後腐れのない娘だと言ったんだ」
「なんてことを……、人間のすることじゃない」
母親は私の手を取って握り絞めた。
「遂勢いで此処まで来ちゃったけど、私社長さんこと良く知らないのよ。ねぇ、どうしよう?」
「どうしようって今更言われても……。俺、てっきり母さんの知り合いだとばかり思っていたよ」
二人は会社の前でうろうろしていた。
でも一番ドキドキしていたのは私だった。
AV女優を遣らされていた橘遥が実の娘だと知ったら、きっといい気持ちはしないだろう。
そんなことは解りきっていた。
父が社長をしていると言う本社ビルがあまりにも大きくて、私は戸惑っていた。
「ヨシ、こうなったら強行突破」
弾みを付けて手を引く彼に私は同行した。
手に力が込められているのが判るほど彼は興奮していた。
「申し訳ありません。此方の社長さんにお会いしたいのですが……」
受付まで言ったのはいいけれどどうやら息切れのようで、目が游いでる。
私も隣で溜め息を吐いていた。
「アポイントメントはお取しておりますか?」
「いいえ……」
なんて言ったらいいか解らなくて困っていたら、神野海翔さんのお父様がタイミング良く出て来られた。
でも、お父様は気付く素振りもなく玄関に向かわれた。
気付いてもらいたくて手を振ってみた。
でも駄目だった。
それに気付いた母親が、お父様を追い掛けてどうにか振り向いてくれた。
「あれっ、君達は息子の知り合いだった?」
「あっ、はいそうです。その節はご迷惑をお掛け致しました」
「この方々とお知り合いなのですか? 社長にお会いしたいそうですが……」
「あのぅ、社長さんに伝言をお願いしたいのですが……」
母はそう言いながら、持ってきた写真を見せた。
海翔さんのお父様お父さんの顔付きが変わった。
母親の胸にしっかりと抱かれていたから助かったようだ。
「きっと、近くで貴女の泣き声を聞いたんだ。自分の子供だと勘違いして抱き上げた。だからその人の子供だと思い込まれて一緒に救急車で運ばれたんだ。貴女を育ててくれたお母さんの名前が橘はるかだったんだ。だから監督は……、つまり監督は育児放棄をして逮捕されたお母さんのことまで調べたんだ。だから俳優陣に後腐れのない娘だと言ったんだ」
「なんてことを……、人間のすることじゃない」
母親は私の手を取って握り絞めた。
「遂勢いで此処まで来ちゃったけど、私社長さんこと良く知らないのよ。ねぇ、どうしよう?」
「どうしようって今更言われても……。俺、てっきり母さんの知り合いだとばかり思っていたよ」
二人は会社の前でうろうろしていた。
でも一番ドキドキしていたのは私だった。
AV女優を遣らされていた橘遥が実の娘だと知ったら、きっといい気持ちはしないだろう。
そんなことは解りきっていた。
父が社長をしていると言う本社ビルがあまりにも大きくて、私は戸惑っていた。
「ヨシ、こうなったら強行突破」
弾みを付けて手を引く彼に私は同行した。
手に力が込められているのが判るほど彼は興奮していた。
「申し訳ありません。此方の社長さんにお会いしたいのですが……」
受付まで言ったのはいいけれどどうやら息切れのようで、目が游いでる。
私も隣で溜め息を吐いていた。
「アポイントメントはお取しておりますか?」
「いいえ……」
なんて言ったらいいか解らなくて困っていたら、神野海翔さんのお父様がタイミング良く出て来られた。
でも、お父様は気付く素振りもなく玄関に向かわれた。
気付いてもらいたくて手を振ってみた。
でも駄目だった。
それに気付いた母親が、お父様を追い掛けてどうにか振り向いてくれた。
「あれっ、君達は息子の知り合いだった?」
「あっ、はいそうです。その節はご迷惑をお掛け致しました」
「この方々とお知り合いなのですか? 社長にお会いしたいそうですが……」
「あのぅ、社長さんに伝言をお願いしたいのですが……」
母はそう言いながら、持ってきた写真を見せた。
海翔さんのお父様お父さんの顔付きが変わった。