【完】女優橘遥の憂鬱
 「ねぇ母さん。その人遥って言うの?」


「あぁそうだよ。知らなかったのかい?」


「彼女、監督に橘遥って名付けられたのです。もしかしたら監督は全て知っていて……」


「監督? 橘遥?」


「ほら、この前暴行未遂で逮捕された、元報道監督です。俺、監督の元で彼女の撮影をしていました」


「橘遥って? もしかしたらA……」
そう言い掛けたところで彼が止めに入った。


「すいません。いずれ判ることかも知れませんが……」

彼に言われて、回りに人のいることに気が付いた。


「すまんがキミ、ちょっと席を外してくれないか?」


「はい。では廊下で待機しております。御要望がございましたらお声掛けをお願い致します」

社長秘書はそっと部屋を後にした。




 「橘遥……って、もしかしたら例の戦慄か? 何故、そんなこと……」


「俺が悪いんです」


「いいえ、決して彼のせいではありません。全部監督の企んだことです」


「違うよ。俺が監督から脅されて、時効が成立するまで隠していたからだよ」

彼は頑なだった。

監督に言われるがままにAVを撮らされていた彼。

彼が悪い訳ではない。

それでも彼は謝り続けていた。




 「申し訳ありません」
彼は再び土下座をした。


「いいえ、誉めて上げてください。先ほど申し上げましたが、この子じゃなければ見付け出すことは出来なかったと思います。彼女の心を助けようとしたから……。だからお嬢様は此処にいるのです」

父は何故か……
引き寄せられるように私を抱き締めていた。


「お帰りはるか。やっと娘に逢わせてくれたね」

父は母に言っていた。

父の目は柔らかく、私の後ろに注がれていた。


「ずいぶん苦労したようだね」


「いいえ。彼が傍で……、何時も私を見守ってくれていましたから」


「ありがとう」

父は彼に握手を求めた。




 「監督から、やいたディスクが送られて来た時は娘だと気付かたなった。こんなにも家内にそっくりだと言うに……。一番悪いのは私かも知れない」

父はそう言いながら机の奥からそれを出していた。


それはバースデイプレゼンショーだった。


彼は慌てて、あの写真をバックから取り出した。


「何も知らず、俺が撮影しました」

彼は泣いていた。
全て自分のせいだと思い込んで……




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