【完】女優橘遥の憂鬱
 「いや、違う。ターゲットが違うんだ」


「ターゲット?」


「あの監督は私の知り合いで、君のことを全部知ってた。知ってて君に撮影させたんだ」


「つまり、ターゲットは俺ってことですか?」

彼が突拍子のない声を上げる。
何が何だか判らず戸惑っているようだった。




 「きっと監督は橘遥が私の娘と気付かずに、許嫁の君に撮影させたんだ。このバースデイプレゼンショーは、二十歳の誕生日に橘遥がグラビアデビューをすることをマスコミにプレゼンするためだと書いてあった」


「はい、そう聞いてます。だからプレゼンショーと名付けと」


「一応……、見てみた。その中に君がいた。あの時カメラを誰かに預けなかったか?」


「あっ!?」

彼が震え上がった。




 私も気付いていた。

あのクーラーで冷やされた床で、全員が脱いだズボンの上で拘束されたのがあの俳優陣だったことを。


私の腕も、片方ずつの足も……
拘束していたのはアイツ等だったのだ。


つまり、二度目の輪姦の一番最初を監督に遣らせるためだったのだ。


でもカメラマンだった彼は監督にカメラを預けた。

だから、彼の映像が其処にあるのだと思った。




 「私に送られて来たバースデイプレゼンショーは、許嫁の君の実態を知らしめるためだったようだ。脅せば金になるとでも思ったのだろうな」


「監督は当時、かなり借金をしていたと最近知りました。だからその返済のために俺が狙われた訳ですか?」


「でも、その後何も言って来なかった。だからすっかり忘れていたんだ。すまない。本当にすまない」

父は盛んに謝っていた。


「君達を八年間も助け出してやれなかった」

父は泣いていた。


「考えたら、全員がモザイク処理をされていたんだな。でも君だけは違っていたんだ。君はあの時はまだ未成年だったはずだ。監督はそれも承知で君の顔を私に知らしめたのだよ。だから君のせいじゃないんだ」

声が上ずる。

悔しさが一層、父の表情を暗くしていた。


「いけない、いけない。娘が戻って来てくれた大切な日だって言うのに」

父は暫く私の傍に彼を並べて考えていた。


「そうだ。この記念に何かサプライズのことをやろう」


「サプライズ?」


「絶好の企画があるんだよ。やってみないか?」

父の言葉に私達は頷いた。




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