【完】女優橘遥の憂鬱
 小さな面会室。
録音や録画や携帯電話などの電子機器は勿論、タバコも持ち込み禁止で、全て入室前に預けなければならない決まりになっている。

後で会話などをチェック出来ないから俺の立ち会いが必要だったのかも知れない。


弁護士にも知られたくない事実。

俺はその意味を考えて震えていた。




 俺達は一緒に部屋に入って椅子に腰をかけ、向こう側のドアが開くのを待っていた。


暫くすると監督が姿を表した。

一瞬のうちに緊張感に包まれた。


無精髭は擦られており、かっての威厳は感じられなかった。

それでも眼光の鋭さは消えることなく、不気味に光っていた。




 きっとこれが俺が受ける酬いなのかも知れない。

俺は今まで娘を助け出した恩人として優遇されてきた。

結婚まで秒読みとまで言われている。
嬉しいことなんだけど、辛い。
彼女を衝動的に犯してしまった事実が、未だに俺を苦しめていた。




 「あっ、お前か? 何でお前まで一緒なんだ」

監督は俺の顔を見るなり言った。


「こっちは何処かの社長か? もしかしたら、行方不明になっていた娘でも見つけたか? ハハァーン。だから二人か?」


「判っていたのか?」


「あの顔を見たらすぐに判ったよ。はるかにそっくりだったからな」

監督は不気味な笑い顔を浮かべながら言った。




 (はるか? もしかしたら彼女の母親の知り合い? いや、呼び捨てだったってことは……)


「ああ、見つかったよ。貴様が八年間も囲い込んでいた娘をな」


(監督は彼女が社長の娘だと知っていた。知ってて強制的に撮影したのか? その上で、彼女の許嫁である俺にそれを撮影させていたのか?)

監督は社長の言葉を聞きながら不気味に笑っていた。




 「やはり俺が……、その娘の許嫁だと知っていたってことですか?」

監督は頷いた。


「お前が『待った。先に俺から遣らせてくれ。誰かこのカメラ頼む』と言った時、勝ったと思った。仇を打ったと思ったからだ」

一瞬、社長の目が向いた時ヤバいと思った。


「仇!? やっぱりそんなこと思っていたのか? だったら彼女は裏切っていない」


「どう言うことだ」


「彼女は悩んでいた。お前が戦場に行く度に……」


「だからって、お前が彼女を奪う権利はない」




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