【完】女優橘遥の憂鬱
 「俺と彼女は同じ誕生日でした。十二月二十三日です」

そう言った途端に監督の顔色が変わった。

明らかに動揺している素振りだった。


「二人は同じ産婦人科で同時に誕生したそうで、互いに運命を感じたそうです。彼女の母親と俺の母親は親友でした。だから二人は許嫁になったのです。本当に彼女とは同じ誕生日でした。だから、バースデイプレゼンショーの時にはまだ未成年だったのです」


「そう言うことだ」


「嘘だ。嘘だ。本当にそうだとしたら俺は……」
監督は青ざめていた。


「監督は、自分の子供だとも知らずに彼女を犯して……」


思わず、ハッとした。

言ってしまってからとんでもないことを言ったと気が付いたけど、もう遅かった。


「えっ!? 今、何て言った。監督があの娘と? 嘘だろ?」


「すいません。本当のことです。監督は俺の後でした。申し訳ありません。どうしても言えませんでした」
俺は遂に告白していた。


「若いね君は……」


「そうだ。お前は若過ぎる。いや……、馬鹿過ぎる」

監督はそう言いながら、泣いていた。


「今度のこともそのことも、地獄まで背負って行ってほしかった」


気配りが足りない。
そう思った。


監督は既に気が付いているはずだった。

罪の重さに動揺しているはずだった。
なのに俺は……
傷口に塩を塗り込んだのだ。




「あの娘が私とはるかの娘だと思い込んで、貴様は自分の娘を……」

社長は泣いていた。


「いいか。もう二度と娘には近付くな。あの娘をこれ以上苦しめてたくないからな」

社長が言い放った。


「君のことは知っていたよ。バースデイプレゼンショーの中で……」




 「すいません。カメラマンとして恥ずべき行為をしてしまいました」


「それを貴様が悪用した。でもこれだけは覚えとけ。私はあの娘の父親だ。だから全力で守り抜く。はるかの忘れ形見のあの娘を……」


「解った。俺も罪を償うよ」


「二度と娘の前に現れないと約束してくれ。あの娘の幸せを脅かさないでくれ」

監督はその言葉に一瞬声を詰まらせた。


「娘をよろしく頼む」

監督はそう言って、面会室から出て行った。




 「すまない。今までの話はみんな嘘だ。あの娘は本当は私の子供なんだよ」

社長はそう言いながら俺にウィンクした。


「えっ!?」

俺の言葉に反応したのか、社長は慌てて視線を外した。




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