【完】女優橘遥の憂鬱
 「待ち合わせ場所で同じ服を着た人がいたから、きっと間違えたんだよ。でも悪いのは私じゃない。アイツ等だ」

監督はそのアイツ等を指差した。

その途端に何かが動いた気配がした。

きっと何処かに隠れるつもりなんだろう。

私は呆れたようにそちらに顔を向けた。




 私はそのアイツ等を見て目を疑った。


男性俳優は顔見知りだった。

思い出したくもない。
私のヴァージンを奪ったあの三人だった。

私はこのスタジオでアイツ等に輪姦された。

私がヴァージンだと知っていながら、監督が遣らせたからだ。

私はその時から、監督の言いなりに暮らすしかなくなったのだった。


それは私の養父母の借用書を監督がちらつかせ、意のままにさせられたからだった。


私は監督に売られた人間だったのだ。

あの時監督は俳優陣に向かって、後腐れのない女だと私のことを言っていた。
だから、アイツ等に好き勝手に弄ばれたのだった。

そうだよ。
私には両親もいない。
でもあの時までは普通の大学生だったのだ。




 アイツ等は私と目線が合い、気まずそうにスタジオの隅に隠れた。


『それだけ、お前さんにぞっこんだったことだよ。一度遣らせてくれってお願いされたからにゃ、使ってやらない訳がない』
打ち合わせの時の監督の言葉を思い出す。


(もう一度私と遣りたいかっただけじゃない。何が一度遣らせてくれよ。私がバック以外遣らせないから? だから目隠しさせて遣りたい放題? きっとそうだ。そうに決まっている)

悔しい。
悔しくって涙も出ない。

でもそれは確実に、私を過去へと向かわせていた。




 「ごめんごめん」
でもその前に、そう言いながら転がるように入って来た彼。

見ると、大分息は上がっていた。

ハァハァと肩で息をする彼の傍らで、あの娘のお兄さんは優しそうな眼差しをあの娘に向けてくれていた。




 やっと平常心に戻ったのか、彼は監督の元へ歩み寄った。


「貴様、俺の妹に何てことしやがる!!」

それでも彼は、まだ興奮していた。




 「監督が悪い!!」
私は叫んでいた。


「何故一緒に彼処に行かなかったの? 何故カメラマンを変えたの? 彼なら……、私と彼女の区別がついたはずよ」


私は既に、怒りを通り越して呆れていた。
呆れ果てていた。




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