【完】女優橘遥の憂鬱
 はるかさんが監督を愛していた事実は揺るがない。

それでははるかさんは何故母に嘘をついてまで、監督のことを隠したのだろうか?


『貴女のお母様とは幼稚園の時からずっと一緒で親友だったの。久し振りに会ったのが、あの産婦人科だった。彼女は恋人が自動車会社の社長の息子だと知らなかったんだって。プロポーズされた時初めて打ち明けられたそうよ』
と、母は電車の中で彼女に言った。

あれは一体何だったのだろうか?


もしかしたら見栄か?

監督はその頃はまだ行方不明のままだった。
だから社長に結婚を迫られていたようだ。

社長にとっては、誰の子供なんて問題ではなかったのだろう。
ただ愛するはるかさんと暮らしたかっただけだったのかも知れない。


でも、そんなことでは監督の背負った苦しみは晴れやしないと思った。




 「あの時、俳優陣は言ったんです。『そりゃ、勿論最高だよ。コイツ無理に締め付けるんだ。それが却って俺達が悦ぶことなんて知らずにな』って。そしたら監督が、『えっ、そんなに締め付けたんか? そんだったら、一緒に遣らせてもらえば良かったな』って言ったから彼女は今度は床に拘束された訳です。監督に遣らせるためでした。だから成り行き上、行かない訳には……」


「そう言うことか?」


「監督だって躊躇したと思いますが……」


「いや、それでも行っちゃダメだよ」


「あの時。俳優陣は監督にも罪をきせようとしたのではないのでしょうか?」


「その通りだと思うね。でもその前が君だったんだろ?」


「はい。反省してます」

俺は、思わず立ち上がって頭を垂れていた。


社長はきっと、俺とヌードモデルの元カノのことも皮肉ったのだろう。

あの時、誘われるがままに行った俺。
でも彼女は俺を愛していたと言った。

俺は何処まで罪作りなのだろうか?




 「私はあの時、『あの監督は君のことを全部知ってた。知ってて君に撮影させたんだ』って言ったね。ターゲットは一体どっちだったんだろう?」


「ターゲットは俺じゃなかったってことですか?」


「監督はきっと橘遥が私の娘だ思って、苦しめるために敢えてモザイク処理したのじゃないかな?」


「君の映像を私に見せることで、撮影を辞めさせてほしかったのかも知れないな。私はそれに気付かず放置してしまった。やはり悪いのは私だったようだ」



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