【完】女優橘遥の憂鬱
 「いえ、やはり悪いのは俺です」


「いけない、いけない。又、余計なことを……。君を苦しめるためじゃないんだ。気にしないでくれよ」


社長は気にするなと言った。

でもしない訳がない。

俺はこれから先……
多分一生、この重い十字架を背負って生きて行くしかないんだろう。


それはキリストが十字架を背負って歩かされたと言う、ヴィア・ドロローサにも似てる。

エルサレムにある悲しみの道は、その先の丘まで続く。


十三日の金曜日に処刑され、西暦三十三年のニサン十六日に復活したとされる救世主。

自分にもその復活があるとするならば、今度こそ彼女をしっかりと守りたい。

そう考えた時、閃いた。

愛の鐘の向こうに無人のチャペルを作ろう。
と――。


出来ることなら二人でその近くに住み、一生を彼女に捧げたいと思ったんだ。


それが俺の出来る唯一の償いだと思った。

俺の夢は……
今変わった。




 「例の仕事は順調かい? 町起こし企画も立派な当社のアピール作戦だからね」


「はい。海翔君共々頑張っています」


「良し、頼むよ」


「社長。たった今、いいアイデアが浮かびました。彼処で腰を下ろして仕事がしたいのですが」


「つまり、娘と一緒に彼処で暮らしたいってことか?」


「はい。海翔君達と一緒に愛の鐘プロジェクトをやり遂げたいのです。あの土地が会社の資産なら、もっと活かせる方法も模索出来ると思います」


「何だか解らないけど、君はやってみたいのだろう?」


「はい。是非やらせてください」

俺は必死に頭を下げた。
そんな姿を、社長は微笑んでくれたように感じていた。




 「海翔君も神野君の転勤で苦労させたからね。本当に幸せになってもらいたいんだ」


「彼は充分幸せです。何しろみさとさんと言う、可愛い奥様にゾッコンですから」


「あ、そりゃそうだ」

社長は声を出して笑った。

それは初めて見る光景だった。




 「歌舞伎町でナンバーワンホストに祀り上げらた彼は、陰謀に負けて田舎に帰った。だけど私にはそれが正解だったように思えるのだよ。実は彼処のオーナーとは古くからの知り合いでね……」

社長はその後も海翔君の話しをしていた。


あの、【ジン・神と呼ばれた男――疑惑のチェリーボーイ】
も読んだようだ。
だから海翔君が心配だったようだ。



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