【完】女優橘遥の憂鬱
 海翔君はみさとさんの話しに目を輝かせたそうだ。

ワザとではなくて自然だったようだ。


それに気を良くしたみさとさんは次々とテレビで取り上げていた話題の農作業を紹介していったようだ。

それが、あの豚の耕作地へと繋がる訳だ。


俺は気を良くして、愛の鐘チャペル化計画案を海翔君に提出した。


海翔君が目を丸くする。
俺はこの時、必ず成功することを確信した。




 「それにしても……、愛の鐘をチャペルの一部にしてしまうなんて考えもしなかったな」


「いいアイデアでしょう? チャペルは元々礼拝堂って意味だから、神父様が居なくても良いのかな? なんてね。本当は其処にスタジオがあればいいんだけどな」


「スタジオ? どうして?」


「ホラ、結婚式には記念撮影が付き物だろう。衣裳なんてなんだっていい。ただベールさえあればそれでいいんだ」


「そのベールをハートの花壇で作ってもらおうよ。それこそ、初めての共同作業だ」

海翔君が言い放つ。
俺はただ頷いていた。


「スタジオも何時か作りたいね。そうすれば此処にずっと居られるでしょう?」


「そうだね。共同生活なんてことも出来る」


「いや、俺はヤだね。みさととイチャイチャしたいから」


「それは、俺だって彼女とイチャ……。いやぁ、若いっていいね。羨ましいぞ」

俺達は何時の間にか親友みたいになっていた。




 社長が海翔君のことを盛んに誉めていた。
みさとさんを監督達から守ってくれたからだろう。


海翔君があの場所に居なかったら、みさとさんも彼女みたいに犠牲者になっていたのだから。

でも海翔君の話によると、あの場所を彼が通り掛からなければ拉致事件その物が発生しなかったかも知れないけど。


そうなんだ。
みさとさんと兄貴がイベント広場で落ち合ってさえいれば、今回の間違い拉致事件は起こらなかったかも知れないのだ。


「いや、本当に反省してる。みさとに深い傷を追わせてしまって、申し訳ないと思っているんだ」


「だから余計にみさとさんが愛しい?」


「だからってことないよ。俺は元々、みさとが大好きだったんだから」


「だから、ホワイトデーに張り切ったなかな?」


「そうだよ。ああー、マシュマロキスもっとしたかったに……誰かさんが邪魔してくれたから消化不足だよ」

冗談っぽく海翔君が言った。




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