【完】女優橘遥の憂鬱
 海翔君の作った花壇の周りは竹製のキャンドルスタンドだった。

でも余り準備が出来なかったらしい。

そこで花壇の中心に一番大きな竹を置き、残りを周りにバランス良く配置したそうだ。


周りの竹に火が灯るとキレイなハートの型にアートになったそうだ。

つまり、夜ライトアップする代わりに蝋燭の灯でロマンチックな演出をしょうと思ったらしいんだな。

手伝ってくれた人に言われた火の着かない工夫をした後で。


竹の中に薄べったい石を入れただけだそうだが、これは良いアイデアだと思った。




 海翔君の親父さんは、電話であの愛の鐘を建設することになったと言われた時、嘘だと思ったらしい。


前日お披露目したばかりだから信じられる訳がないのだ。


でも今日、俺のアイデアを聞いて更に耳を疑ったようだ。


俺はその鐘を、神父様のいないチャペルの一部にするつもりだと言った。


つまり、二人だけで愛を誓う場所になるのだ。

此処に訪れてくれた恋人達へ、ささやかなサプライズプレゼントになるはずだった。


そして何時か……
そのチャペルの中にスタジオが出来ればいい。

そう、それこそが俺の夢なんだ。


幸せのカップルの写真だけを撮りたくなったんだ。

もうAVの撮影はお断りだ。

監督のように、命の危険も顧みい報道カメラマンになるのもお断りだ。


俺は彼女と幸せに暮らせればいいと思っていた。




 「そうだ。そのチャペルの横には、小さなレストランを作ろう」

突然海翔君が言った。


地元で獲れた食材を使って、最高のグルメを作る。
最も、取れたて野菜と魚なら手を加えなくても美味しいはずなのだ。




 海翔君は、新鮮な魚を届けてくれると言った。

俺はその時、海翔君が漁師だっけことをすっかり忘れていたのだった。


「そう言えば、漁師だったんだよね? どうしてそんなに本気なの?」


「俺は、俺達の両親の故郷を守りたいだけなんだ」


「骨を此処に埋める覚悟だってことか?」


「あぁ、みさとと一緒なら何処でもパラダイスになる。どう、此処に来ない?」


「そうだな……、それが一番だ」

そう言ってはみたけど、その前から此処で暮らすと決めていたんだ。


でも、一番気になるのは彼女のことだ。

みさとさんが監督達に拉致監禁された事実がバレるかも知れないからだ。




< 80 / 123 >

この作品をシェア

pagetop