【完】女優橘遥の憂鬱
 「良かった。無事で何よりだった」

号泣している彼女が、落ち着くまで男性は付き添って待っていてくれた。


「俺は兄貴の友達で、歌舞伎町でホストをやっている者だ。俺が話し掛けたからこんなことになってしまった」

それでも待ちきれず語り始めた。
全てが自分の責任だと言わんばかりに。


(違う、貴方が彼処を通ったからじゃない。一番悪いのは、コイツらだ!!)

私は其処にいた五人を睨み付けていた。


エロ監督とアルバイトのカメラマンとどうしょうもない俳優陣。

其処には確かに五人いたのだ。


「本当に良かった。もし何があったらと気が気じゃなかった」
男性はそう言いながら立ち上った彼女のデニムの汚れを払っていた。




 新宿駅西口から少し行くと暗いガードがあり、下を潜るとその先は歌舞伎町だ。


バイクで追い掛けた彼女のお兄さんは其処のホストだった。


だから何時もは違う道を行くらしいのだが、血の滴るような色合いの薔薇を探すために東口に足を延ばしたのたのだそうだ。

そう……
今日はハロウィンだったのだ。

男性は派手な水玉模様の服を着ていた。

どうやらピエロの衣装のようだ。
どうしてこんな姿かって言うと、それは彼女にコートを着せるためだった。


彼女の上着はビリビリに引き裂かれていたのだ。

つまりそれは私が、そうされるはずだったのだ。


思わず頭に血が上る。
腸が又煮え繰り返りそうになった。




 アイツ等は本当に最悪な連中だった。

後腐れのない私に目隠しをして、遣りたい放題弄びたい。

この八年間、そんなことばかり考えていたようだ。

そう……
ヴァージンをアイツ等に奪われてからもう既に八年間も経ってしまっていたのだった。

その八年にどんな意味があるのか判らない。
でも、良からぬことを企んだことだけは確かのようだ。




 「良かったみさとちゃんが無事で」

男性は彼女の名前を呼んでいた。


(みさとちゃんか? 可愛い名前だな)


「本当に馬鹿だな俺は」
男性はそう言いながら今度は自分の服の汚れを払っていた。


「目の前でみさとちゃんが連れ去られて行くのを見ていながら気付かなかったんだ」

男性は新宿駅前をバイクで走行中、弟を見つけ嬉しくなって思わず声を掛けたらしい。

そのせいで彼女が連れ去られと思っていたのだ。




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