【完】女優橘遥の憂鬱
 「生焼けの豚肉をそれとは知らずに食べて、寄生虫が脳に入り込んで痙攣を起こしたそうだよ」


「怖えー!!」


「そう、怖いそうだよ。衛生面では日本の豚肉は世界一安全のようだよ。でも、海外ではそうはいかないようだ。豚の寄生虫が人間の体に入り、その排泄物を食べた豚が汚染されて行くようだ」


「うわ。聞いているだけで気持ち悪くなった」


「監督は日本に戻ってから手術して治ったようだが、スタッフが亡くなっている。その家族が又頭角を現してきた監督にヤラセを仕組んだと、当時は言われていたようだ」


「逆恨みかな?」


「そうかも知れない。もし、背負わされた借金のためのAV撮らされたのなら最悪だな。監督も社長も彼女も……」


「社長は監督とは親友だとか言っていたからな」


「だから色々と聞こえていたらしいよ。当然のこと、借金を申込まれるのだろうと思っていたみたいだ」


「でも結局何もなかったみたいだね」


「そのことも含めて君にも話すとか言っていたね。それが面会だったのか?」


その言葉に俺は戸惑った。

もしかしたら、彼女と監督との関係も話してしまったのではないかと思って……
さっきの背負う物が本当は何だったのか気になっていた。


「俺には秘密にしろって言ったくせに……。社長酷いな」

俺はワザと落ち込んで見せた。
その後で海翔君の反応を見るためだった。


社長が何処まで話したのかを知りたかったのだ。




 全てヤラセが原因だった。
だから、番組から追放され多額な借金を背負わされたようだ。


仕事に疲れた監督が投げやりになって、貯めていた映像でいい加減な番組を製作した訳ではないらしい。


それは元々仕組まれていたのだ。

それを仕掛た犯人こそ、その亡くなった人の家族だったのかも知れない。




 「ごめん海翔君。俺、どうかしてた。『娘には聞かせたくないんだ。悪いけど、一生背負って行ってくれないか』って、社長からそう言われている。俺一人が背負っている訳ではないね。皆それぞれの哀しみの道を歩んでいるんだ。そんなことも解らなかった」


「それぞれの哀しみの道をか?」


「監督も社長も、皆それぞれ苦しいんだ」


「そうだから、橘遥さんのためにも頑張ろう。結婚まで後少しだからね」


「あっ、又仕事忘れてた」


俺達は慌てて、業者に連絡を入れた。




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