【完】女優橘遥の憂鬱
――ドッシャーン!!
いきなり記者席から物凄い音がした。
恐る恐る其処を見ると、折り畳みの椅子が投げ出されていた。
誰かが父の言った、その反応を見るためにやったことらしい。
私は何事も無かったような素振りをみせた。
本当は心臓が飛び出すくらいに驚いていたのだ。
でも……
頭を抱え込み、育ててくれた母が蹲っていた。
突然のことで頭が混乱したのだろう。
ワナワナと震える体は誰かを求めるように立ち上がり、両手を伸ばしながら徘徊を始めていた。
私を探しているのだと思った。
大きな音が、きっとあの事故現場を思い出させたのだ。
(あの時も母はこのようにして……だから私は助かったのだ)
事故の模様は判らない。
でも私の小さな命はその時救われたのだ。
私は急いで第二の母の元へと駆け付けた。
「お母さん、大丈夫よ。私、此処にいる。今のお母さんには判らないと思うけど、あの時助けられた三ヶ月の赤ん坊は此処にいるよ!!」
私は泣きながら母を抱いて、床にゆっくり腰を下ろした。
「悪戯にもほどがあります。そんなに、この方を傷付けたいのですか!?」
父は怒りをぶちまけた。
「これで、タイトルは決まりですか? 橘遥の父、記者会見場で暴れる。とか? 私は何時でも受けて立ちます。全力でこの娘を守ります。どうか、この娘を幸せを奪うような行動はお控えください。よろしくお願い致します」
父は椅子から立ち上がった。
「お願い致します。もうこれ以上……、この二人を傷付けないでやってほしいのです」
そして記者席に向かって土下座をした。
「私からもお願い致します。どうか彼女を好奇心の目から御守りください。彼女を静かに暮らさせてあげてください」
彼も、そう言いながら父の隣で土下座をしていた。
一斉にフラッシュが炊かれる中で、微動たりしない二人。
彼も父も、思いは一つ。
それは私の幸せだった。
「出来ることなら、娘のことは記事にしないでやってほしいのです。インターネット上では、娘は既に死亡していると聞きました。だったらそのままにしておいていただけますか? 確かに橘遥はもうおりません。この娘は今日より別の人生を歩んで行きます。だから……、どうかよろしくお願い致します」
父は記者席に向かって頭を下げた。
いきなり記者席から物凄い音がした。
恐る恐る其処を見ると、折り畳みの椅子が投げ出されていた。
誰かが父の言った、その反応を見るためにやったことらしい。
私は何事も無かったような素振りをみせた。
本当は心臓が飛び出すくらいに驚いていたのだ。
でも……
頭を抱え込み、育ててくれた母が蹲っていた。
突然のことで頭が混乱したのだろう。
ワナワナと震える体は誰かを求めるように立ち上がり、両手を伸ばしながら徘徊を始めていた。
私を探しているのだと思った。
大きな音が、きっとあの事故現場を思い出させたのだ。
(あの時も母はこのようにして……だから私は助かったのだ)
事故の模様は判らない。
でも私の小さな命はその時救われたのだ。
私は急いで第二の母の元へと駆け付けた。
「お母さん、大丈夫よ。私、此処にいる。今のお母さんには判らないと思うけど、あの時助けられた三ヶ月の赤ん坊は此処にいるよ!!」
私は泣きながら母を抱いて、床にゆっくり腰を下ろした。
「悪戯にもほどがあります。そんなに、この方を傷付けたいのですか!?」
父は怒りをぶちまけた。
「これで、タイトルは決まりですか? 橘遥の父、記者会見場で暴れる。とか? 私は何時でも受けて立ちます。全力でこの娘を守ります。どうか、この娘を幸せを奪うような行動はお控えください。よろしくお願い致します」
父は椅子から立ち上がった。
「お願い致します。もうこれ以上……、この二人を傷付けないでやってほしいのです」
そして記者席に向かって土下座をした。
「私からもお願い致します。どうか彼女を好奇心の目から御守りください。彼女を静かに暮らさせてあげてください」
彼も、そう言いながら父の隣で土下座をしていた。
一斉にフラッシュが炊かれる中で、微動たりしない二人。
彼も父も、思いは一つ。
それは私の幸せだった。
「出来ることなら、娘のことは記事にしないでやってほしいのです。インターネット上では、娘は既に死亡していると聞きました。だったらそのままにしておいていただけますか? 確かに橘遥はもうおりません。この娘は今日より別の人生を歩んで行きます。だから……、どうかよろしくお願い致します」
父は記者席に向かって頭を下げた。