【完】女優橘遥の憂鬱
 「最後にこれだけは言わせてください。私はこの娘を傷付けようとする者を決して許さない。これ以上、興味本意での取材等行わないでください。お願い致します」

父は泣いていた。
会場からもすすり泣きが聞こえていた。


二十八年を経てやっと出会えた父娘。
その姿に、惜しみ無い拍手が贈られていた。




 「それではそろそろ記者会見は終了させていただきます。最後にご質問はございませんか?」

会場を取り仕切っていた関係者が言った。


でも誰からも質問は出て来なかった。

父が泣いている傍で、私が第二の母を抱いて号泣していたから躊躇したのだ。




 「それではそろそろ、質疑応答の時間は終了させていただきます。最後にこれだけは言わせてください。私は又此処に工場を復活させます。させてみせます。いえ、させてください。どうか皆様のお力をお貸しください。よろしくお願い致します」

父はもう一度深々と頭を下げた。




 小さな控え室に第二の母と向かう。

その時、不思議な感覚にとらわれた。

何故か歩き方が若いのだ。


それはまるでモデル歩きのようだった。

私と会えて嬉しいからなのか、とも考えてみた。
それでも違和感がある。
私は首を頻りに傾けていた。




 「どうしてくれるの私の美貌?」

控え室に入り辺りを見回してから第二の母が言った。

その声に聞き覚えがあった。


「もしかしたら社長?」


「えっ、えっーー!?」

彼も突拍子のない声を上げた。


「うまく誤魔化せたね」

社長は誰かに話し掛けていた。


「無理なことを引き受けていただきましてありがとうございました」

そう言いながら姿を現したのは海翔さんだった。




 「やっぱりな」
彼が言う。
私は呆気に取られていた。


「大きな音がした時、記者席を見たんだ。皆呆気に取られていた。そして誰がやったのかと探りを入れていた。何となくだが、コイツ等じゃないと思ったんだよ」


「もしかしたら、父に頼まれて?」


「いいえ、違うよ。社長は私の話を信じてた。私を橘はるかさんだと信じていたわ。だから、一緒に愛の鐘を鳴らしてくれたの」


「あっ、お色直しの」


「あんまり貴女達が遅いから、強引に誘っちゃったわ。中で何をしていたか知らないけど……」

社長は上目遣いで彼と私を交互に見た。




< 99 / 123 >

この作品をシェア

pagetop