ファントム・アンド・ローレライ
序
拾いものなう。 32秒前
流行りというには普及しすぎた、イマをつぶやくマイクロブログ。部活帰りのバスの中、見知らぬだれかのつぶやきをスマホを使って追いかける。それが彼――加藤良成の習慣だった。
今日も良成はいつもの通り、片手につり革片手にスマホで立ったまま、アプリを開いて――「おやっ」と目をとめた。一番上に躍り出た7文字だけのつぶやきが、ほんの少し気になった。
発言したのはリアルの知り合いではない。tengというハンドルネームの彼(仮)と相互フォローになったのは、たいへんにマニアックすぎて知ってる人が周りにいない、とある小説家について大いに盛り上がったからだった。大手検索サイトでサーチをかけても、書籍販売サイトの他には5、6件しかヒットしない。そう告げればどれだけ知名度が低いか分かるだろうか。そういう小説家だ。良成にとってtengというどこかのだれかは、その小説家を知っていて、かつ彼の作品について存分に語ることのできる唯一の知人だった。
tengのつぶやきはやたらと長い。140字という文字数制限ぎりぎりまで、哲学めいた長文や読み終わった本の感想、その他もろもろをめいいっぱい書き連ねるのが彼(仮)の常だ。つぶやきにわざわざ「(続)」と添えて、複数の発言を繋げてしまうことだって日常茶飯事だった。
そんなtengが、たった7文字のつぶやきを上げていたから気になったのだ。
tengはフォローもフォロワーも少ない。どちらも2桁に満たないから、おそらく彼(仮)のタイムラインは良成がいま見ているものよりずっと穏やかなことだろう。良成と相互フォローになった数ヶ月後、tengは自身のアカウントにロックをかけた。単語のチョイスに癖があって難解だが、とろりとあふれて流れ落ちるような、やわらかさと勢いを併せ持つ。tengの文章は読めば読むほど病みつきになるけれど、そんな彼(仮)のつぶやきが読めるのはたった5人のフォロワーのみだ。
良成以外の、4人は気付いているのだろうか。短いツイートを繰り返す時、tengは大概、テンパっている。
流行りというには普及しすぎた、イマをつぶやくマイクロブログ。部活帰りのバスの中、見知らぬだれかのつぶやきをスマホを使って追いかける。それが彼――加藤良成の習慣だった。
今日も良成はいつもの通り、片手につり革片手にスマホで立ったまま、アプリを開いて――「おやっ」と目をとめた。一番上に躍り出た7文字だけのつぶやきが、ほんの少し気になった。
発言したのはリアルの知り合いではない。tengというハンドルネームの彼(仮)と相互フォローになったのは、たいへんにマニアックすぎて知ってる人が周りにいない、とある小説家について大いに盛り上がったからだった。大手検索サイトでサーチをかけても、書籍販売サイトの他には5、6件しかヒットしない。そう告げればどれだけ知名度が低いか分かるだろうか。そういう小説家だ。良成にとってtengというどこかのだれかは、その小説家を知っていて、かつ彼の作品について存分に語ることのできる唯一の知人だった。
tengのつぶやきはやたらと長い。140字という文字数制限ぎりぎりまで、哲学めいた長文や読み終わった本の感想、その他もろもろをめいいっぱい書き連ねるのが彼(仮)の常だ。つぶやきにわざわざ「(続)」と添えて、複数の発言を繋げてしまうことだって日常茶飯事だった。
そんなtengが、たった7文字のつぶやきを上げていたから気になったのだ。
tengはフォローもフォロワーも少ない。どちらも2桁に満たないから、おそらく彼(仮)のタイムラインは良成がいま見ているものよりずっと穏やかなことだろう。良成と相互フォローになった数ヶ月後、tengは自身のアカウントにロックをかけた。単語のチョイスに癖があって難解だが、とろりとあふれて流れ落ちるような、やわらかさと勢いを併せ持つ。tengの文章は読めば読むほど病みつきになるけれど、そんな彼(仮)のつぶやきが読めるのはたった5人のフォロワーのみだ。
良成以外の、4人は気付いているのだろうか。短いツイートを繰り返す時、tengは大概、テンパっている。
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