Spicy&Sweet
スパイシーな彼
知り合ったきっかけは、私の勤めるスイミングスクールに彼の娘さんが通い始めたこと。
毎週、母親でなく彼が娘を送り迎えしているのが不思議で、同僚にそれとなく聞いてみたらこんな答えが帰ってきた。
「あの人、シングルファーザーなんですって」
――と。
そうしたら、今まで気にならなかった彼のことが、急に視界に入るようになった。
背が高くて着るものもお洒落。
さらに整った顔立ちの中の、何より切れ長の瞳が自分好みであることに気がついて。
たった一人で、しかも父親が異性である娘を育てるって、ものすごく大変なんじゃないかとか、他人なのに心配したり。
彼も娘もどちらかというとやせ形だから、料理はどうしているんだろうと、見えない彼らの生活に気を揉んだりした。
そんな私の変化にいち早く気づいたのは、彼でなく、彼の小学四年生の娘、芹香(せりか)ちゃんだった。
「――あやめ先生、最近パパのことばっかり見てるでしょ」
「えっ」
プールサイドで彼女にそう言われたとき、あまりに図星すぎて、しかもこの子に指摘されるとは思ってもみなくて、私はかなりわかりやすく顔を赤くしたと思う。
芹香ちゃんは嬉しそうに笑みを深めると、私にしゃがみこむよう促し、こう耳打ちした。
「パパね、離婚と大失恋を経験してから、ちょっと恋に臆病になってるの。だからあやめ先生からアプローチした方がいいと思うよ!」
「せ、芹香ちゃん……」
楽しそうに集合場所へ戻っていった彼女に“大人をからかうな”とは言えなかった。
だって、ガラス張りの壁の向こうにあるギャラリーで、優しげに芹香ちゃんを見つめる彼の姿を見るだけで、胸がドキンと跳ねる。
これは恋だって、そろそろ認めなきゃならない時期。
彼女の言うことが本当なら、私からなにか行動を起こさなきゃ、いけないんだ。
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