Spicy&Sweet

それからというもの、いきなり馴れ馴れしくするのはさすがに不審だし、と、芹香ちゃんの話題でそれとなく話しかけてみて、そこから世間話程度には話題が広がるようになった。

けれど与えられた時間はほんの数分。

レッスン前、芹香ちゃんを含めスクールの生徒たちが更衣室で着替えている間だけ、ギャラリーの椅子に座る彼の隣に私はジャージ姿で立つのだ。


彼の名は徳永健吾(とくながけんご)さんと言って、私より八つ年上の三十六歳。

この施設からも近いアロマショップとカフェのオーナーをしているらしい。


「アロマショップ……だからいい香りがするんですね、徳永さん」


私ははにかみながらそう言った。

実はいつも気になっていたんだ。
彼が動く度に、スパイシーでセクシーな香りが周りに漂うこと。


「そうですね、仕事柄香りには人一倍興味があります。今つけてるのは香水なんですけどね。あ、もしかしてきついですか?」

「いえっ! むしろ好きです!」


って。ちょっと、力んで言い過ぎたかも……

焦って視線をあちこちに泳がせる私。

好き、って。別に深い意味があったわけでは……いや、本当はあるんだけど。

急に挙動不審になった私を見て、徳永さんは切れ長の目をさらに細めてクスクスと笑った。


「あやめ先生には、甘い香りが似合いそうだ」

「……え?」

「いや、似合うというより……僕が求めてるだけなのかもしれないけど。
ちょっと苦い経験が多すぎて、虫歯になるくらい甘いものに、何も考えず浸ってみたいんです」


徳永さんは相変わらず微笑んでいたけど、芹香ちゃんから聞いた話のせいもあってか、私には寂しげに見えて仕方なかった。

だから、口を開いたらこう言ってた。


「あの……徳永さん。今度お暇な日ってあったりします?」


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