Spicy&Sweet
淡々と会計を済ませ、お店を出たときの彼は“本当の徳永さん”だと思った。
私の手首を掴む力は強く、歩幅も合わせてくれない。
押し込まれるように乗せられたタクシーで連れていかれたのは、いかにもなラブホテル。
ついさっきまでの彼ならシンプルなシティホテルか、あるいは高級ホテルすら選びそうな雰囲気だったけれど、私にはこっちの方が嬉しかった。
安っぽい壁紙に囲まれ、わざとらしいピンクの照明に照らされた部屋に入ると、徳永さんは着ていたジャケットを床に脱ぎ捨てた。
高そうな物なのに、皺ができてしまうことも気にしない様子で。
そして目の上に垂れた前髪をかき上げると、ベッドの脇にぼんやり佇んでいた私を押し倒す。
ぎし、とスプリングが跳ね、すぐに徳永さんの熱い唇が降ってきた。
「ん、ん……っ」
唇の隙間になだれ込んでくる舌と一緒に、彼のスパイシーな香りが私の中に入って胸一杯に広がる。
そのせいで身体は火照り、私の香りも蒸発していく。
ゆっくり唇を移動させ、耳朶を噛んだ彼は吐息混じりにささやいた。
「……綿菓子、みたいだなきみは。甘くて、柔らかくて……」
「ん……そういう香りを選んだから……。徳永さんの、お菓子になりたくて」
かすれた声で答えると、首筋に滑り落ちた唇が、一ヶ所を強く吸い上げた。
「あ……! だめ、明日はスイミング、なのに……」
跡をつけられたら、すぐに周りに気づかれてしまう。
きっと、私たちが一緒にいることを知ってる芹香ちゃんにだって。