この香りで惑わせて


 そんなに目立つ匂いじゃないし、たいした量はつけてない。


 その後、会話はぴたりと止んだ。


 彼は真っ直ぐ前を見ていて、何を考えてるのかわからない。


 やっぱり、効果なんてない。


 そう思った瞬間、車は赤信号で止まり、彼の手が伸びてきた。


 首の後ろを掴み、引き寄せられる。


 唇が重なって、呆けたあたしの開いた口に舌が差し込まれ、はじめてキスされてることに気がついた。


 ねっとりと熱く、口内をたっぷりと舐める。


 離れる時に下唇を吸われて、軽く噛まれた。


「やばいな……」


 彼が車を走らせ始めるときに呟いた言葉に、あたしの心臓はハチドリみたいに羽ばたいた。


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