この香りで惑わせて


「どうした? いつもより、静かじゃないか?」


「そ、そう?」


 あたしは、言葉を濁した。


 じゃないと、さっきまで考えていたことを口に出してしまいそうで、怖かった。


「そうか? 気のせいならいいんだ。駐車料金を精算してくるから、車のところで待っててくれ」


 あたしは小さく頷くと、助手席のところに行った。


 サイドミラーに写った自分は、惨めなくらい魅力に欠ける。


 少しでもましに見えるように、グロスを取り出そうと鞄を開けて、思わず手が止まった。


 目に入ったのは、ピンク色の小瓶。


 そして、思い出したあの言葉。


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