この香りで惑わせて



『紳士的な男も野獣に変わりますよ』


 半信半疑で小瓶を手にして、彼がまだ戻って来てないのを確認して吹きかけた。


 スカートをたくしあげるのは恥ずかしかったけど、腿の内側にも吹きかける。


 こんな香水で、何かが変わるなんて思ってない。


 でも、心のどこかでは変わったらいいなとも思ってる。


 あまりにも矛盾してる。


「お待たせ」


 その声に、あたしは小瓶を鞄に押し込んで、助手席に座った。


 車はゆっくりと走りだし、車の少ない通りをあたしの家へと向かっていく。


「亜美……香水なんてつけてたっけ?」


「今まではつけてないよ。でも……今日、同期の子に試供品を貰ったからつけてみたの」


 彼が気づいたことに驚いた。


 
< 9 / 17 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop