茉莉花の少女
 「そろそろ起きろよ」

 僕は自分の体が揺さぶられているのに気づく。

 いつも僕を起こすのは機械の音のはずなのに。

「久司君。朝ですよ」

 キーの高い、ストレートに伝わってくる声だった。

 思わず目を開けた。

 僕の顔を覗き込んでいたのは大きな瞳をした少女だった。

「先輩、顔が近い……」

 つい先日、触れたばかりの少女の顔がそこにあった。

「茉莉、あんまり覗き込むなよ。困っているぞ」

「ごめんね」
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