茉莉花の少女
 けれど、そんなものはなかなか見つかることもない。

 辺りを冷たい風が吹きぬける。

 ついこの前まで暖かかったのに。

 もう、彼女と出会った頃とは違う季節なのだ、と痛感する。

 そして、彼女との別れが近づいていることも気づいていた。

 そんな気持ちを振り払うために、彼女が見せてくれた白い花を探す。

「久司君、もういいよ。ありがとう。わたしのために」

 彼女はそう言うと、僕に手を差し出す。

 ここで、この手をつかむと、

 全て終わってしまうのだろう。

 そんな気がした。

 僕は首を横に振ると、再び走り出す。

「久司君?」

 驚いたような彼女の声。

 聞こえていたが、振り返ることはしなかった。

 ただ彼女に笑ってほしくて、記憶の中の白い花を探していた。
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