茉莉花の少女
「少し時間がほしい」

 だからといって彼女にかける言葉も見つからなかった。

 責めることも、優しい言葉をかけることもできなかった。

「分かっている。もう会いたくないなら、それでいいから」

 悲しみを帯びた声。

 僕は彼女から目をそらすと、部屋を出た。

 このままここを出て、家に帰るのだろうか。

 そう思ったとき、リビングに見慣れない姿があるのに気づく。

 彼は僕と目が合うと、目をそらし、息を吐いた。

「あいつから全部、聞いたのか?」
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