茉莉花の少女
 僕は首を横に振る。

 それが彼女の僕への想いだったのだろう。

 でも、彼女に今、一番伝えたいのはそんな言葉じゃない。

 その言葉を探し出し、口にした。

「ありがとう」

 それが今の僕の君への最大の気持ちだった。

 君がいなければ笑うことさえできなかった。

 人を信じることも、誰かのことを想いやることもできなかった。

 それを痛いほど感じていた。

 僕は彼女を見て、微笑んだ。

 彼女の瞳が涙で溢れていた。

 そして、唇を噛む。

「わたしこそ、ありがとう」

 そう言った彼女の目から流れる涙の量はもっと増えていた。
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