茉莉花の少女
「何でかな。今まで誰ともつきあう気なんかしなかったのに」

 その答えは彼女だからと分かっていた。 

 だからつきあおうと思えたのだ。

 ある種の勘のようなものだったのだろうか。

 他の女に似たような条件を提示されていても多分断っていただろう。

 茉莉は軽い足取りで歩いていく。

 そのとき強い風が起こり、彼女の近くでは赤く染まった葉が揺れていた。

「茉莉」

 彼女が消えてしまいそうな気がして、思わず名前を呼んだ。

 彼女の髪が揺れ、振り返った。

 彼女の澄んだ瞳が僕の顔をじっと見つめていた。

 彼女のなつかしい言葉が蘇る。

 見たいものがある。そういったときの眼差しと似ていたのだ。

 それが何か彼女の婚約者から聞いた。

 それを望んだ彼女の口からきちんと聞きたかったのだ。
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