茉莉花の少女
「久司君の家に行きたいかな。今まで一度も入ったことないから」

「茉莉の家みたいに広くないし。汚いし、母親が帰ってきたらまた」

 彼女に言われるかもしれない。

 そう思ったけど、そんなことを気にするのがばからしかった。

 言われてもどうでもいいような気がしていた。

 今、目の前にいる彼女の笑顔を見たかったのだ。

「でも、あの料理はどうする?」

「運ぼうか? 食器や残り物はお兄ちゃんに後から取りにこさせるから」

 それを彼女の兄が聞いたら文句を言いそうだけど、彼ならきっとそうしてくれるだろうと思っていた。

 彼もまた、僕達とは違う形で彼女の幸せを願っていると思ったのだ。
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