茉莉花の少女
 迷うなら彼女が幸せになれるほうを選んだほうがいいのだから。

「久司君にはきっと素敵な、優しい人が現れると思うの。だから、その人と幸せになってね」

 僕が彼女についた最初で最後の嘘だった。

 僕は彼女を見て、うなずく。

「分かった」

 茉莉は目を細めていた。

 きっと君以上に誰かを好きになることはないだろう。

 それを分かっていた。

 人をさげすまなくなっても、それが恋愛感情に直結はしない。

 人を人として見ることができるようになっただけだったから。

 それでも今の君の不安な気持ちを解消するためなら嘘を吐いた。

 それはそれでよかったと思っている。

 君の笑顔を見ていると、そう思えた。
< 314 / 362 >

この作品をシェア

pagetop