茉莉花の少女
「僕こそありがとう」

 何度お礼を言っても足りないほど彼女には感謝していた。

 彼女が僕を抱きしめた。

 僕の体だけではなく、心までも包み込んでくれる不思議なぬくもりだった。

 どれほど暖房設備の整った場所にいても、これほどあたたかい気持ちを味わうことは二度とないだろう。

 そして、その手が離れる。

「さよなら」

 彼女はそれだけを言い残すと、振り向かずに部屋を出て行った。

 彼女が笑っているのか、泣いているのかさえ分からない。

 彼女を追いかけたくて、自分のものにして仕方なかった。

 でも、そんな気持ちを押しとどめる。

 そんな力もない。

 それが彼女を苦しめることも分かっていたのだ。

 彼なら彼女を幸せにしてくれる。

 そう何度も言い聞かせた。



 けれど、暗い部屋の中で僕は自分の目から熱いものがこみあげてくるのを、堪えることができなかった。
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