茉莉花の少女
 二度とこの家に戻ることはないと思っていた。

 十年以上門をくぐることのなかった家の前に立っていた。

 今でも圧倒されるような門だった。来るものを寄せ付けない威圧感がある。

 この家を出たとき、僕と母を見送ってくれたのは、このいかつい門だけだった。

 見送る役目を門に押し付けた彼らが、自分達の都合が悪くなれば、呼び寄せるということがおもしろかった。

 でも、人はそんなものなのかもしれない。

 前のようにさげすむような気持ちにはならなかった。

 それは彼女が僕の中に心を与えてくれたからだった。

 それを消すことは彼女との時間を否定するものと同じことだったからだ。
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