茉莉花の少女
 父親は病院に入院していた。僕は父親の妻の咲枝さんとともに病室に見舞いに行った。

 父親のベッドの枕元には僕が送った封筒と成績表が置かれていた。

 あとは本が数冊。

 そんな成績表なんて家に持って帰ってもらえばいいのに。

 そう思ったが、口には出さなかった。

「来年の春からあなたの家に住むことになりました」

「そうか」

 彼の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 その涙がどんな気持ちで浮かんできたのか僕には分からない。

 彼はそれ以上、何も言わなかった。
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