茉莉花の少女
「ね? いいでしょう?」

 半ば強引ともいえる頼みごとだった。

 事の発端は林が家を出て一人暮らしをすることになったらしい。

 それで誰かに手伝いを頼もうと思って思いついたのが僕だったらしい。

 三田は新しくできた彼女とのデートに忙しく、奈良は用事があるとのことで断ってきたらしい。

「ごはんをおごるから」

「分かったって」

 それくらいなら暇だからかまわないと思って、彼女と近くの駅で待ち合わせることになった。


 僕ははやめに家を出て、空を仰ぐ。

 もう冷気が肌を包み込む、そんな季節になってきていた。

 彼女と過ごした日々が脳裏に、鮮明に蘇ってくる。

 そして、僕の足は自然と彼女と茉莉花を見た場所に向かっていた。
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