茉莉花の少女
 「ごめんね」

 その言葉とともに現れた彼女はジーンズにショートタイプのトレンチコートを着ていた。


「いいよ。三田と違って暇だし」

 その言葉に林は笑っていた。

「久司は誰から告白されても相手にしないからね。結局、久司とつきあえたのは茉莉先輩だけだもん」

 彼女たちは包み隠さず、自分たちが感じたことを僕に告げてくれる。

 だから今でも交流がもてたのかもしれない。

「茉莉先輩がうらやましいくらいあるよね。そこまで思ってもらえるなんて」

 僕の苗字は母親の家から父親の家に住んだときに岡村に変わった。

 それ以来、彼女たちはみんな僕のことを久司と呼ぶようになった。

 だれも久司君と呼ばないのは、それぞれの気質なのか、茉莉がそう呼んでいたからか分からない。
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