茉莉花の少女
「一応、そういうわけでもないけどなな」

 建前上はそういうことになっている。

 いつまでも彼女を忘れられないということは彼女との約束を破り続けていることになるから。

 もし、彼女より強く心惹かれる存在がいるならその人とつきあうかもしれない。

「表面は恋人募集中でも全然募集してないじゃない」

 僕はそんな林の言葉に苦笑いを浮かべていた。

「別に人を好きにならなくてもさ」

「日常生活に困るわけでもないし、でしょう?」

 彼女は聞き飽きたのか、僕の言葉を代わりに伝えてしまっていた。

「そういうこと。そんながっつくのも違和感あるし」

「それはそれで久司らしいけどね」

 彼女はそう言うと、肩をすくめていた。

「でも、茉莉先輩ってやっぱり広い家に住んでいるんだろうね」
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