茉莉花の少女
「すごいね」

 林は目を見開き、門のところで立ちすくむ。明らかに挙動不審といいたくなるような行動だった。

 これなら家の人に怪しまれてもおかしくない。

 早く通り過ぎるに限る。

「早く行こう」

 そう彼女の伝えたとき表札が目に入る。そこには内田と記されている。

 僕はその苗字を知っていた。

 忘れるわけもない。

 そのとき、僕の背後を女性が通り過ぎる。背の高いすらっとした女性と、その女性より少し小柄な女性だった。

「ここに住んでいた綺麗な奥さんは? 最近見ないわよね」

「どうやらお兄さんは跡を継がずに、弟さんが跡を継ぐらしいわ。

だから、弟さんたちがこの前越してきたでしょう。で、お兄さんたちの夫婦は入れ違いのように出て行ったと聞いたわ」
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