茉莉花の少女
「でも悪いよね」

 そんなことを言いながら、おもいきり期待した目で僕を見ている。

 彼女は自分がどれほど顔に出やすいのか理解しているのだろうか。

「いいよ。そんなところでじっとされても困るから」

「そうするね」

 彼女は軽い足取りで店の中に入っていく。

 何も食べる気はしなかったが、少しくらいなら帰るのが遅くなっていいのかもしれないと思った。

 店の中に入ると店員が声をかけてきた。

 彼女は水を一つずつ並べると、メニューを手渡していく。

 その彼女の視線が僕を見て、彼女を見る。

 彼女はそんなことに気づかないのだろう。

 必死にメニューと睨めっこをしていた。
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